日本の四季の中で現実的に一番長い季節となるのは寒い冬です。
日本は国土が南北に長いので北と南とでは気候がだいぶ違いますが、最北端の北海道では氷点下40度に達することもあり、首都東京でも氷点下5度になった記録があるくらい、冬は寒い国であることに違いはありません。

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そんな中でやはり頼りになるのが暖房設備で、自動車においても古くから「ヒーター」という形で採用し続けられています。
最近ではマニュアルエアコン、オートエアコンに含まれたひとつの機能として搭載されている形になっていますが、ここ最近の低燃費ブームの影響から、エアコン1つにしても燃費性能に細かくなっていて、燃費の良し悪しを重要なポイントにする視点も増えてきました。

日常でガソリン代を節約したい、けれど生活の上で自動車が必要…というジレンマを抱えた方も多いのではないでしょうか。

今回は、エアコンの暖房機能がガソリン代にどれだけ影響を与えるのかを見ていきたいと思います。

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冬のエアコン(暖房機能)はガソリン代の節約にどう影響する?~暖房機能の仕組み

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暖房機能がどうやって燃費性能に影響していくかの前に、暖房機能はどうもたらされているのかということを知っておきましょう。

暖房機能を構成するのは以下のような部品、機器です。

・エンジン冷却水(LLC)
・エンジン
・ウォーターポンプ
・ヒーターバルブ(ウォーターバルブ)
・ヒーターコア
・ブロアファン(ブロアモーター)

エンジン冷却水(LLC)

カーエアコンの暖房機能、カーヒーターはエンジンが発生する熱を利用して機能するもので、その熱の媒体となるのがエンジンを冷却するために入れられている冷却水です。

「LLC」とか「ロング・ライフ・クーラント」とか「クーラント」と呼ばれることもありますがすべて同じものです。

冷却水は本来の目的だけであれば、水道水などの普通の水で事足ります。しかし自動車の構造上、そして自動車を使う環境的なことから、様々な薬品を混合したものが使われています。

まず1つ目の薬品ですが、「エチレングリコール」です。
自動車は非常に過酷な環境下で正常に機能しなければならないもので、例え氷点下にもなる北国でも正常のエンジンが稼働しなければなりません。そういった中で水道水を冷却水として利用するとどうなるか…
皆さんもご存じ通り水は約0度で凍り、体積が増えます。
そのような性質を持つ水を冷却水としてエンジンに入れて、氷点下にもなる土地で一晩放置したら、エンジン内部のウォータージャケット内や冷却水のホースやパイプ、ラジエーターの中で水が凍ってしまい流動性なくなってしまうばかりか、体積が増えることであちこちの部品が壊れてしまうのです。
この状態で仮にエンジンがかかったとして、凍った冷却水が溶けて水へと帰ったとしても破損した部分からジャンジャン漏れだしてしまうのです。

こういった事態にならないように冷却水には不凍成分として「エチレングリコール」というものが混ぜられています。
エチレングリコールが適切な割合で混入されていれば、氷点下どころではなく氷点下15度ぐらいまで液状を保つことができ、更にエチレングリコールの濃度を高めれば氷点下40度ぐらいまで凍らない状態を保つことができます。

2つ目は「リン酸塩系」の物質
冷却水はエンジン内部のウォータージャケットやウォーターポンプ、金属製のパイプ、ラジエーターなど鉄やアルミ合金などで作られた部品の中を通って流れていきます。
その際に普通の水ですと、それらの金属パーツを長い時間かけて腐食させてしまい、最終的には冷却水経路に穴をあけてしまったり、ウォーターポンプの動きを悪くさせてしまうのです。
そこで防錆・防腐食剤としてリン酸塩系の薬品を適量入れるのです。

3つ目は、色素です。
不凍成分として混入されているエチレングリコールは、人体にとって非常に有害なもので一定量を超えて摂取してしまった場合、死に至ることもあります。
直接皮膚に触れてしまうことを繰り返すと皮膚がんになるなどいった真偽不明の噂も聞きます。

これだけ危険なものを、例えば無色透明や薄い着色をした状態にしておいてしまったら間違って飲んでしまうかもしれない、触れてしまうかもしれないということで、危険な液体であることを示すために緑や赤といった色をつけています。

基本的には上記の3つの薬品が含まれていることになりますが、更にいろいろな成分を混ぜたものも販売されています。

エンジン

暖房機能はエンジンの熱を利用したものですので、エンジンがなければ何も始まりません。

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エンジンのシリンダーフロックなどには冷却水を流すスペース、ウォータージャケットが設けられていて、その中をウォーターポンプで作られた圧力で冷却水が流れる構造です。
エンジン周りを流れることで、エンジンが発した熱を冷却水が受け取る形になり、それによってエンジンは冷却さえることになります。

エンジンの熱がそれほど高くない場合は、この状態で冷却水がエンジンのまわりをぐるぐると回るだけなのですが、ある一定の熱を溜めてしまうと、今度は熱を帯びた冷却水を冷やさなければこれ以上のエンジンの除熱ができなくなってしまいます。

そこでサーモスタットという冷却水の温度で開閉するバルブを用いて、冷却水の温度がある一定程度の温度に達した場合、これが開くことで冷却水がエンジン周りから離れてゴムやシリコンで作られたホースを経由してラジエーターに流されていくのです。

ラジエーターでは電動ファンで作られた風や走行風をつかってラジエーターの内部に流れる冷却水の熱を奪います。
熱を奪われて少し冷えた冷却水はまたエンジン周りのルートに戻り、またエンジンの熱を受けるようになるわけです。

暖房機能もこの熱を帯びた冷却水を暖房機能用のルートに引き込んでその熱を使って温風を作ります。

ウォーターポンプ

エンジン周りやラジエーターまでの経路、暖房機能用の経路などで水の流れを生むためのものがこのウォーターポンプです。
ウォーターポンプはクランクケースなどに直接付けられていることが多く、クランクシャフトの回転をギヤで拾って回転しています。

ヒーターバルブ(ウォーターバルブ)

ヒーターバルブはエンジン周りを流れる正規の冷却水ルートから適切な量の冷却水を暖房機能用ルートに引き込むために付けられているものです。
車によって暖房機能用ルートへの分岐点に付けられているものと暖房機能用ルートから正規のルートの戻ってくるところに付けられているものがありますが、機能は全く同じです。

このバルブは冷却水を取り込む、取り込まないの2つのパターンで機能するものではなく、暖房に必要な温度にあわせて取りこむ流量を調整することができます。

・ガンガン温めたい時:バルブ全開でたくさんの冷却水を取り込む
・少しだけ温めたい時:バルブを少しだけあけて流量を制限する
・温めたくない、暖房がいらない:バルブを完全に閉める

といった感じです。

ヒーターコア

ヒーターバルブの制御によって正規のルートから暖房機能用ルートに取り込まれた熱を帯びた冷却水は、このヒーターコアという部分に流されていきます。

ヒーターコアは冷房機能のエボパレーターのようなもので、内部にエンジンの熱を帯びて熱くなった冷却水を流すことでヒーターコア自体にも熱を持たせ、そこに風を当てて温風を作りだすのです。

ヒーターコアで熱を奪われて多少温度が下がった冷却水は、暖房機能用ルートを通ってまたエンジン周りの正規のルートに戻っていき、また同じサイクルに戻ります。

ブロアファン(ブロアモーター)

冷却水の熱を帯びたヒーターコアにあてる風を作るのが、このブロアファンです。
専用のブロアモーターでファンを回して風を作ります。
ヒーターの風の強弱を作るのもこのブロアファンの役目で、専用のレジスターでブロアモーターの回転数を調整して風量の違いを作ります。

通常では助手席側グローブボックスの奥やセンターコンソールの奥の方に置かれています。

冬のエアコン(暖房機能)はガソリン代の節約に影響しない~暖房機能は使いたい放題

暖房機能は、簡単にいえばエンジンの熱を冷却水を媒体として再利用したある意味で非常の効率の良いものといえます。
そもそも自動車というのは燃料を熱に変換する機械であって、実際に走ることに使われる熱量が全体の2割程度といわれています。残りの8割のうちのほとんどが、エンジンからの熱、排気ガスから熱として大気に放熱してしまうものらしいです。

ある意味で非常に効率の悪い機械であることがわかるのですが、見方を変えると、通常ではラジエーターに流され放熱されてしまう熱をヒーターコアに冷却水を流し、そこから「暖房の温風」というものを生み出すということはよくできたシステムといえるでしょう。

さて、ここまで見てきた暖房機能の仕組みですが、果たしてこの仕組みは燃費性能を悪化させるのでしょうか?

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冷房機能ではエンジンの回転を使って力のいるエアコンコンプレッサーを回すことから燃費性能の悪化を引き起こしてしまいましたが、暖房機能の仕組みが分かると答えが見えてくると思います。

まず、エンジン冷却水は暖房機能だけでなくエンジンを正常に稼働させるために必要なものですが、単なる水で暖房機能を使っていなくても存在するものですから影響ありません。

次にエンジンですが、これ自体が燃費性能を生み出すものですからこちらも影響ありません。

ウォーターポンプも暖房機能に関係なくついているものです。

ヒーターバルブは暖房機能特有のものですが、冷却水ルートの単なる切り替え機ですので全く問題ありません。

ヒーターコアも暖房機能で重要なものですが、内部に冷却水が流れるだけでこれが燃費性能を悪化させるとは言えないでしょう。

それはブロアファンも同じです。大きく重たい電気モーターがついていますがそれくらいの重量が燃費性能を悪化させるとは考えられません。

ということは燃費性能を悪化させる要素は1つもないということになります。

結論としては…

冬に暖房機能を使っても燃費性能を悪化させることはなく、ガソリン代の節約を邪魔するものではないことがわかりました。

冬のエアコンでもガソリン代の節約に影響が出る場合がある

単なる暖房機能として使う分には燃費性能やガソリン代の節約に一切影響しないことがわかりましたが、実はある使い方をすることで燃費性能が著しく悪化することがあります。

それは除湿機能とデフォッガー機能です。

例えば、雨がしとしとと降っている冬に車を運転したとします。
乾燥しがちな冬の気候とはいえ、ずっと雨が降り続いていれば湿度も上がりますし、車に乗り込んだ人間の服や靴には多少なりとも雨水がついているはずです。

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それによってキャビン内の湿度はめきめきと高くなります。
その状態で冬ですから、ヒーターを使ってキャビン内を温めると急激にガラスが曇り始めます。
これはガラスのすぐ内側に存在した「温かく大量の水分が含まれていた空気」が外気の温度で冷やされているガラス面に触れ、空気中の水分が急激に冷やされて液体の水となったことによる現象で、それがガラスの内側にくっついてしまうと起こります。

これでは前後も横も見えず、危険極まりない状態になってしまいます。
これを瞬時に打開することができるのが除湿とデフォッガーです。

A/Cボタンをオンにすると温度に関係なくエアコンコンプレッサーが稼働し始めます。
エアコンコンプレッサーが稼働することによってエボパレーターが冷やされ、そこに当てられているブロアファンで作られた空気に含まれている水分がエボパレーターにくっついてドレン水となり、車外に流れていく…要するに除湿です。

これによってキャビン内の空気の湿度は下がり、ガラスで急激に冷やされても曇りにくくなるのです。

更に除湿機能で作った乾燥気味の空気をフロントウィンドウのすぐ下にある噴き出し口から出させる(デフォッガー機能)と、フロントウィンドウについている小さな水の塊(くもり)を直接乾燥させることで排除し、瞬時に曇ったガラスをクリアにすることができます。

これは冬場だけでなく、湿度の高い梅雨時から夏場にかけても使うことがあるのでご存じの方もいると思いますが、除湿やデフォッガー機能は冷房機能を使っている時と同じように、エアコンコンプレッサーが稼働しているわけですから、エンジンに負担がかかり、その分だけ燃費性能が悪化してしまいます。

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